• 蝶の骨
    Oct 7 2024

    蝶の骨

    少女は 蝶の骨が見たいと言う

    闇に齧られた月が 遠くピラミッドの真上に止まり 『祭り』という意味の象形文字を照らす夜 少女は 生贄の様に 窓の下のトウキョウに 白いお尻を晒す

    腐りきれず彷徨う この国の片隅で 皮肉に満ちたビートを刻む 少女の心臓よ おまえに恋ができたから 俺はまだ自分を見捨てない

    少年は昔 全身にナイフが生えていた

    世間という鎖に触れると 金色の産毛が針の様に逆立ち 愛してくれた人を傷だらけにしてしまったあの夏 少年は 天然のテロリストとして 年に二十分の一ずつ 自分を殺す事にしたんだ

    鉄条網が破れた夢と現実の境界線で 耳を感情を唇を切り落としてきた少年は 俺だ でも おまえに恋ができたから せつなさだけは 少年のままだよ

    インカ帝国の滅亡を見届けた彗星が トウキョウの空を横切り 動物園に捕らえられた幾千もの獣が騒ぎだす夜 忘れられた祭りの様に 少女と俺は抱きしめあう そして見えないものを 見つめ 在りえないものを 探しあてた時 俺達は 今ここにいる理由(わけ)を知る

    もし 蝶に骨があるなら この国にもまだ 未来があるかもしれない もし ナイフがおまえの中に優しく溶けてゆけば 人間にもきっと 愛は残っているはずだ

    七色の鱗粉を脱ぎ捨てた 骨だけの蝶が 震えるナイフの刃先に そっと止まる そして 見えないものを 見つめ 在りえないものを 探しあてた時 俺達は 今ここにいる理由(わけ)を知るんだ


    1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

    森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

    ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩 森雪之丞スタッフX:⁠⁠⁠⁠ https://twitter.com/yukinojo_news

    Show more Show less
    3 mins
  • 空想とノスタルジア
    Sep 23 2024

    空想とノスタルジア

    おもちゃ箱に紛れ込んでいた孤独 タイムマシンと衝突した紙ヒコーキ 引き潮に落ちた透明人間の涙 苺シロップの味がするアンドロイドの接吻(くちづけ) 自分の影を剥がす男 電話で自分と話す女 それは見たこともない懐かしい未来

    脳に寄生する『情報』という名の昆虫(キリギリス) 愛から数えて7つ前の憂鬱 お掃除ロボットをショートさせる記憶の塵 ビルを落下するスマホにだけ写る真実 手のひらで燃える氷 翼の生えた夜汽車 それは振り返るたびに新しい過去

    南仏の海に眠るコクトーの貝殻 伯林(ベルリン)の壁に残る虹の落書き 機械仕掛けの月を眺める恋人達 肺の中までオレンヂに染まる火星の朝焼け 薔薇とサイエンス 空想とノスタルジア

    それは浮遊するタイプライターに打ちつけた 着地点のないポエム


    1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

    森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

    ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩 森雪之丞スタッフX:⁠⁠⁠⁠ https://twitter.com/yukinojo_news

    Show more Show less
    2 mins
  • 時計の針に挟まってしまった天使
    Sep 9 2024

    時計の針に挟まってしまった天使

    倖せの1秒は不幸な1秒の半分もない 同じ間隔で時計の針が動くなんて それは物理学者の笑えないジョーク

    悲しい想い出を忘れたい夜時は動かない いや動かないどころかあの日に戻ろうとさえする

    帰らなきゃいけない君を もう一度きつく抱きしめてしまう時 僕はいつも悲鳴のような声を聞く それはきっと 倖せな時間を止めようとして 時計の針に挟まってしまった天使の悲鳴


    1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

    森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

    ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩 森雪之丞スタッフX:⁠⁠⁠⁠ https://twitter.com/yukinojo_news

    Show more Show less
    1 min
  • 日曜日のキッチン
    Aug 26 2024

    日曜日のキッチン

    あなたとじゃなくてもよかった マラケシュのジャマエルフナ広場の 親方に叱られた猿使いの少年でもよかった 落日の朱色が似合って 折れそうに指が長くて 生まれたことを憎んでいるような目をしてれば あなたとじゃなくてもよかった

    失わないとね 持っていたことに気付かないものってあるの 若さってそうでしょ 若い頃は若さに価値なんてない もうトシだなと感じた瞬間 使い果たしてしまった若さの素晴らしさに 人は茫然と立ち尽くすの

    〝後悔〞は人間だけに蔓延する感情 過去の失敗を未来でまた悔やむなんて キッチンの横に立つトネリコの大木には 人間達の奇妙なゲームにしか見えない

    人間だけが悲しいのかな 世界が滅びる前の日も 空はきっと果てしなく青くて 風は途惑いもなく流れて 紋白蝶はあどけなく蜜を啜(すす)って やっぱり人間だけが悲しいのかな

    アルル郊外のね 使われていない錆びた線路の上をね クロスワード・パズルを解く要領で歩き続けたら そのままアッチの世界へ戻れる気がしたの 終点でゴッホの跳ね橋がもし降りていたら 私はこの身体を上手に脱いでいたと思う

    なぜ此処にいるんだろ? あなたとじゃなくてもよかった でもあなたとだったから 私は今キッチンにいる 日曜の昼下がり カプリ島の女達は素肌の上に メイドのエプロンをつけるんだって そしてポモドーロのソースを味見をしたり ローズマリーの焦げた匂いを嗅いだりするたびに ちょっと欲情するんだって

    欲情と懺悔って似てるかもしれない 原罪なんてどうでもいいけど 生きてることを誰かに許してもらいたいから あなたに欲情してあなたに懺悔する

    「やっと愛を学んだな」と 天からお節介な声が聞こえても 私は否定しないの

    この世界には 失わないと持っていたことに気付けないものがある それを知っただけでも あなたと此処にいて良かったと思う

    幸せな時は 幸せに価値なんてないから


    1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

    森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

    ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩 森雪之丞スタッフX:⁠⁠⁠⁠ https://twitter.com/yukinojo_news

    Show more Show less
    3 mins
  • 遊園地の幽霊
    Aug 12 2024

    遊園地の幽霊(ゴースト)

    水のないプールには 枯葉の波が立つ

    心が透けないように 鉛色のコートを買った君 セーターを脱げば 夏の記憶がまだ 水着の形をしているのに

    頬のペンキが剥げた回転木馬は なんだか泣いているみたいだ

    脈絡のない言葉 抑揚のない時間 執着のない疑問 目的のない視線 やがて君を遠くで眺めたとき 点描写されたサヨナラだったと 気づかせるためのものたち

    花火の夜 錆びついた観覧車が サークルの天辺で故障していたら

    君を抱いて僕は 星空を飛べたと思う 滓(カス)になった情熱は 散らばるポップコーンも踏み潰せないくせに

    閉園まぎわの遊園地 僕は亡霊(ゴースト)とKissをする 僕が愛した君は この世界にはいないことを もう一度だけ 確かめるために


    1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

    森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

    ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩 森雪之丞スタッフX:⁠⁠⁠⁠ https://twitter.com/yukinojo_news

    Show more Show less
    2 mins
  • よくあること <江國香織×森雪之丞「扉のかたちをした闇」朗読会ライブ音源>
    Jul 29 2024

    よくあること

    カレーうどんをたべるつもりが 長崎ちゃんぽんを食べています よくあることです 下田へ泳ぎに行ったはずなのに なぜか箱根で風呂に浸(つ)かっているくらい よくあることです ギターが得意なのに バンドでベースを弾かされているように 恋人にしたかった女性が 一生モノの友達になってしまったように よくあることです 優しさを思い出したら おせっかいと区別がつかなくなっていたり 愛だと信じていたものが 憎しみと掏(す)り替わっていたなんて程度に よくあることです 人を虫けら扱いしたかっただけなのに 政治家になってしまうことや 家族を守りたかっただけなのに 戦場で人を殺してしまうことと同じように よくあることです


    1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

    森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

    ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩 森雪之丞スタッフX:⁠⁠⁠⁠ https://twitter.com/yukinojo_news

    Show more Show less
    1 min
  • 忘れ上手 <江國香織×森雪之丞「扉のかたちをした闇」朗読会ライブ音源>
    Jul 15 2024

    忘れ上手

    失礼しました! 酸素を摂取し二酸化炭素を排出している そんな大変な最中に キスして申し訳ない!

    忘れてるんだね 僕達は たとえば心臓 毎分60から90も拍動する働き者を 安寧(あんねい)の中に置き去りにしている たとえば幸福 それがどんなに素敵なものなのか 失くしてからでないと思い出せない

    忘れてるんですよ僕達は 世界のどこかで今も 神のために人間達が殺しあっていることを

    平気で忘れちまうんです いつかの恋もそうだ 愛が憎しみを分泌する時の 焼きゴテを押し付けられたような あの胸の痛みさえも 今はおぼろげにしか思い出せない だめだね 僕達は そして性懲(しょうこり)もなく また誰かを好きになってしまう

    忘れていてもかまわないこと 忘れているから何度も始められること 忘れたふりをして実は鮮明に覚えていること そんなのをゴッチャにしながら 僕達は無秩序に明日を探すのだけれど 油断すると本当に忘れてしまうよ 生きていることを

    なんかびっくりしてるね 君 もしかしたら今のキスで 生きてるって思い出したの?

    1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

    森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

    ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩 森雪之丞スタッフX:⁠⁠⁠⁠ https://twitter.com/yukinojo_news

    Show more Show less
    2 mins
  • ひとりになるため誰かを愛して <江國香織×森雪之丞「扉のかたちをした闇」朗読会ライブ音源>
    Jul 1 2024

    ひとりになるため誰かを愛して

    人生が果てない旅だと感じるのは 到達点に“はじまり”とルビを振ってみせた 迷惑な詩人のせいだろう あるいは一本の紙テープだった道筋を 糊で貼りつけ輪っかにしてしま った 幼子(おさなご)の仕業かも知れない

    祝祭のある広場にたどり着き 私は恋をする 人いきれに酔い 言葉を応酬し 情熱の灰汁(あく)にまみれた指先で 未来への搭乗券を手渡しあう だがその後 私は猛烈に孤独が恋しくなる 群れを抜け出せばいつも砂漠の空 心を映して月は今宵も さめざめと泣いてくれているのだ

    私はまたひとりになるために 誰かを愛してしまったのだろうか?

    “終わりを失くした始まり”ばかりが 土産物(スーベニール)のように旅行鞄を埋めてゆく人生 それにしても機上のレモンティは どうしてこんなに熱いのだろう 冷めるのを待つ数分だけが 至福の休息だと言わんばかりに

    1976 年作詞作曲家としてデビュー以来、昭和・平成・令和の3 世代でジャンルを超えてヒットチューンを生み出し続ける森雪之丞が、自選詩集『感情の配線』の発売を記念して詩を朗読する番組。 メロディーを脱ぎ捨てた諧謔とエロスと波動(グルーヴ)詩人・森雪之丞の言葉の軌跡を是非ご体感ください。

    森雪之丞 自選詩集『感情の配線』 2024年1月14日(日)発売 特設サイト:https://www.mori-yukinojo.com/emotional_wiring/

    ハッシュタグ:#感情の配線 #推詩 森雪之丞スタッフX:⁠⁠⁠⁠ https://twitter.com/yukinojo_news

    Show more Show less
    2 mins